人は死後に誰かに何かを告げることはできません。
しかし、遺言をする場合、なぜそのような遺言をしたのか、死後に相続人にどのようにしてほしいのかなど、相続人や生前親しかった人に伝えたいことはいろいろあると思います。これらを遺言に付け加えるのが、いわゆる付言事項というものです。
付言事項には、原則として法的な効力は認められませんが、記載があれば相続人が遺言者の意思を尊重し、遺言内容が実現される事は期待できます。
たとえば、子どものうち1人が一番世話をしてくれたので、その子どもに少し多めに遺産を残そうする場合や、生前に子どものうち1人だけに多額の援助をしたので、ほかの兄弟には相続では多めの財産をあげようとする場合など、遺言書にその理由を書いてないと、遺言書を見た子どもは、自分が実は親に嫌われていたのではないか、などと親の予想に反した受け止め方をしてしまいます。
その結果、相続人間に感情的な対立が生まれ、それが原因で相続がうまく進まないといったことも意外にあるものです。
遺言は、遺族に残す最期のメッセージといえます。遺族のためを思った付言事項が添えられていれば、残された相続人も、故人の意思を尊重してくれるかも知れません。
<付言事項の例>
生前に私と同居し、われわれ夫婦の老後の面倒を、長女の晴香が一身に引き受けてくれていたことは、皆も理解しているとおりである。
長男の太郎、次女の夏美は、ともに独立し、相応の生活ができていると聞いている。
また、長女の晴香の身体が弱いのは皆もわかっているであろうし、寝たきりのお母さんの看病を晴香が本当によく見てくれていたことは、皆も知ってのとおりである。
上記を考慮し、家屋敷については妻秋子に残し、その他の一切の財産を長女晴香に継がせるため、本遺言をした。太郎、夏美は、本遺言の趣旨をよくよく理解し、了解の上、遺留分を主張することなく、これからも互いに助け合い、末永く仲良く暮らすことを切に希望する。
よろしく頼む。
ところで、このようにさまざまな思いが込められている遺言ですが、例えば、高齢の配偶者に相続させる場合など、遺言で財産をあげようと考えていた相手が自分より先に死亡することも残念ながら考えられます。
その遺言が遺贈を定めたものであれば、遺言の効力は失われてしまいますから、せっかく遺言をした意味が失われてしまいます。
こういった事を予防するために、補充遺言を活用してはいかがでしょうか。
補充遺言とは、「甥が生きていたら甥に、もし甥がなくなっていたら甥の長男に」というように第2順位の者を決めて行われる遺言をいいます。
<補充事項の例>
1、遺言者は、妻秋子(昭和20年10月10日生)に次の不動産を相続させる。
2、万一、遺言者より前、又は同時に妻秋子が死亡した時は、遺言者は、長男太郎(昭和42
年1月1日生)に、遺言者の有する前条記載の不動産を相続させる。